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32.事件(2)

2011.12.01.Thu.02:29
結局、松岡先生は姿を現さず、ケータイをかけても電源が切られて連絡がとれませんでした。
「急用で帰ったのかな。でも一言教えてくれればいいのにね」
涼子たちはそのまま連れ立って学校から帰ることにしました。

亜紀が再び先ほどの話の続きを始めたのは、二人が一緒に渋谷駅から乗った山手線のシートに腰掛けてからでした。

「ねえ、10時頃、私と一年生でお手洗いに行ったでしょう? そのときの事なんだけど、玄関から入ってお手洗いに行こうとしたら、お御堂の方から、誰かが私のことを呼んだ気がしたの」
「へえ、誰が?」
「分からない。その声は一度だけで、あとはシーンとしちゃったから。耳の錯覚かと思って一年生に確認したら、彼女も確かに声が聞こえたと言った」
亜紀の話によると、その声はお御堂の中から聞こえたのですが、男とも女ともつかない低くて小さな声で、ゆっくりと亜紀の苗字を呼んだそうです。

「苗字?」涼子は聞き返しました。「じゃあ男性の先生ね。松岡先生じゃないの?」

私たちの学校では、伝統的に女性は名前で呼び合う慣習で、女性の先生方は私を呼ぶときtomokoさんと呼びますし、私たちは先生を恵子先生といった呼び方をするのです。
男性の先生方は、生徒を苗字で呼び、生徒も先生を苗字でお呼びするのが慣習です。

「私もそう思って、念のためお御堂に近寄って行って、『松岡先生ですか?』って声を掛けてみたのだけど、何の返事もないの。 扉に手を掛けたんだけど、中から鍵が掛かっていて開かなかったし。 中で人の気配がしたような気がしたんだけど、それも気のせいかもしれない」

お御堂の扉は、天井まで届く大きな両開きで、二枚の扉は分厚い木材の一枚板で出来ており窓もありません。 ぴったりと閉じられてしまえば、中の様子はわかりませんし、音もほとんど漏れないように出来ています。 かすかな隙間から漏れた声が亜紀の耳に届いたのは、それが自分の名前だったからでしょう。

「気のせいかと思ったし、そのままお手洗いに行ってから、すぐコートに戻ってしまったのよ」
「ふーん、変ねぇ」
涼子は首をかしげましたが、丁度、涼子の降りる駅が来たので、話はそこで終わってしまいました。


しかし、あとで判ったことですが、亜紀たちがお手洗いに行った時間、丁度お御堂の中で、事件が起こっていたのです。
死んだのは松岡先生。 後頭部を強打されてお亡くなりになっていました。
あとでそのことを知った亜紀は、顔面蒼白になりましたが、眉をひそめて涼子にこう言いました。
「じゃあ、あの声は断末魔の松岡先生が私に助けを求めた声だったのかしら。 でも不思議よね? 誰かが校舎に入ってきた事は、物音で気づくかもしれないけど、窓もない分厚い扉の向こうから、どうしてそれが私だって判ったのかしら…」
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